「…心配しなくても高橋にはもう迷惑かけないから。だから、干渉しないで」


高橋のオブラートに包みすぎる言葉の意味を理解すれば胸にズキンと痛みが走る。


その痛みを隠すように、言い返す。


高橋は、振り返りもせず、黙った。顔が見えないから、どんな表情をしているのかも分からない。


「――、ここでいい」


1階に着き、エレベーターのドアが開いた瞬間、そんな言葉と共に伸ばしたのは自分の荷物。


あっさりと高橋の手から奪い取ることができて、

その勢いのままエレベーターを出ると高橋へと向き直る。


「岡本さん、」

「別に迷惑かけたつもりは無いけど、お世話になりました」


「あのっ、」


「心配しなくても、自棄になって傷、どうにかしようとなんてしないから。……これ以上傷が出来ても困るし」



傷を傷付けてもね、と傷の見えない胸元へ一度視線を落とせば自分でも良く分からないけれど笑みが浮かんで。


そのまま顔を上げれば目の前の高橋は悲しそうな表情をしていて。どうして、高橋がそんな顔をするの。


傷があるのはあたしなのに。

自分のことを言われたような、傷ついたような顔しないでよ。


何も言わず、眼鏡の奥の瞳がただ、あたしを捉えていて。


高橋の顔を見て、自分がひどく悪いことを言ってしまったような罪悪感が生まれそうになる。