手を伸ばせば、簡単に取れる距離にいるけれど、持っている手に力が入っている気がして。

あたしにそんなに持たせたくないのか、と諦めの溜息を吐き出して、たった今高橋がした質問を脳内で思い出した。

どうやって、帰って、ね。


――そんなの。


どうやって帰ったっていいでしょ。


「適当」

バスで帰るよって言えばそれで済むのに、答えないであえて挑戦的な言い方をしてしまうのがあたし。

これはもうしょうがない。

「…ダイエットに歩いて帰ろうかな」


「ダイエットなんて必要ないでしょ。最近まともに完食してなくて痩せてるんですから。それに外、暑いですよ。歩いて帰って熱中症にでもなったら大変ですから」


「……そうだね。また病院に戻ってこられたら困るもんね」


悩みの種が増えるから。

「……そうじゃなくて。―――家。今日は実家の方に帰るんですか?」


実家……実際高橋の家に入り浸りだったからそう言ってもおかしくないけど……。


昨日、別の人を好きになる、なんて言っておいて、


あやふやになって、

それでもあたしは高橋の家に帰ると思ってるの?

昨日の今日で、高橋の家に帰って高橋が帰ってくるのを出迎えることなんてできない。


どんな顔をして出迎えたら良いのかも分からない。


それに、高橋は迷惑でしょ。


だから、実家に帰るのか。そう聞いているんだ。


直接的では無いけれど、きっと、「実家に帰れ」ってそう言いたいんだろう。