「、それじゃ」
「ちょっと待って」
――そのまま立ち去ろうと思ったのに。
高橋の声が聞こえて、あ、と思った時にはもう遅かった。
今の今まで手に持っていた荷物は高橋の手の中で。
奪われた瞬間取り返そうと反射的に少しあがいてみたけれど、それは届かなかった。
「下まで送りますよ」
「結構です」
「いいから」
「だから結構……」
あたしの言葉を聞かずにやんわり笑って歩きだした高橋。
あたしは何とも言えない感情にその場で地団駄を踏みたくなる。
「……それじゃあ、また検査結果の時に」
「っ、…はい。お世話になりました」
あたしを置いて荷物だけ持っていく高橋はしばらくここから背中を見ていたけれど振り返る気配はない。
置いてきぼりになったあたしに、看護師さんは笑って手を振ってくれた。
「……」
高橋の所まで早足で行くと、高橋はちょうどエレベーターに乗り込んでいて。
早く乗ってと言わんばかりに目線で訴えてくるので、仕方なく乗り込む。



