横田さんの手のひらが、赤ちゃんの頭を撫でる。
片手で包み込めるようなそんなまだ小さい頭。
「それからしばらくして、彼氏が出来て。でも手術したことがある。傷もある、もしかしたら子供も産めないかもしれないって事は言えなくて……
言わなきゃ、言わなきゃって思っても言えなくて……そんな時にプロポーズされたの」
……プロポーズ。
「私もすごく好きだったから嬉しかった。だけど、私はまだ大切なことを言ってなくて。罪悪感があって。もしかしてこの事を知ったら離れてしまうかもしれない……だけど言わないとって、震えながら傷を見せたの」
「傷を……ですか?」
えぇ、と頷く横田さん。
傷を見せること……かなり勇気のいることなのに。
ましてや好きな人、結婚するかもしれない人に見せるのはかなりの勇気がいるはず。
「そしたら彼、笑顔で言ったのよ。“痛い思いして、良く頑張ったね”って」
“―言ったでしょ?本当に好きなら、こんな傷気にしない―”
横田さんの旦那さんが言った言葉を聞いた瞬間、高橋があたしに言ってくれた言葉と重なった。
高橋のような考えの人が、他にもいたんだ。
そういう考えの人がいてくれて、横田さんも良い人に出会えたってことがとても嬉しくて。
苦しそうに話してくれていた横田さんに笑顔が戻ったのを見てあたしも自然に笑みが浮かんだ。
「そしてこの子も産まれて……夢、叶った」
幸せそうな顔。本当に、幸せそうな。
「出産……どうでしたか?」
出産なんて未知の領域だ。 笑顔の横田さんに聞けば、目がきらきらしていて。
「心ちゃんも心臓の心配してるかもしれないけどね、いざ陣痛が始まったら心臓のことなんてどこかに飛んじゃって!早く出てきて!キツいって思いばっかり覚えてる」
やっぱり大変なんだよね……想像できないもん。自分の子供ができるなんて。
「……抱いてみる?」
「えっ、」
「せっかくだから」
にっこり笑って、差し出される赤ちゃん。



