愛乗りシンドバッド

熱とオイルの匂いの交じった
べたついた風を受けながら、
ハルは溶けた氷あずきを
悲しそうに見やり
例の見慣れないタバコに
火をつけた。

「魔人さ」

「……は?魔人?」

「そ。
魔人がルフを呼び寄せた。
奴らは魔力っていって
世の中を操る
不思議な力をもっているんだ。
人間の文化が好きなもんだから、
自分らの思うように
うまく世の中を変えて
ちょくちょく
ちょっかい出してくるのさ。
人の作った物語みたいに
現実を意のままにしてな」

魔人に魔力って……。
なんだよそりゃ。

いや、しかし
この状況下でハルの言葉が
なんて説得力のあるものに
変わったことだろう。

なぜなら
それを否定しても
目の前で起きたことの
説明のしようがない。

あまりに非現実的なことが
今の現実であった。