愛乗りシンドバッド

何かに気づいた時、
時すでに遅しか
深海と思っていたその場で
強くまばたきをしてみると、
そこは海の中なんかではなく
眼前にいたのも
人魚ではなかった。

「ジュ、ジュゴン!」

と見た目が
正反対の生き物に
つい口から出てしまった
心無い言葉。

ふくらとしたホッペタに
ハマグリみたいな
肉厚の唇が、ぷるんっ。

「む、失礼ね!」と
幕内力士ばりの
張り手をくらって
ある意味しびれた俺。

赤く手形がついた顔面で
もう一度あたりを改めて
見渡してみると
そこはどうやら
病院の一室だった。