愛乗りシンドバッド

拳を握りしめるそんな俺を
哀れんでくれたのか、
アッバーサさんは
隣まで近寄ってきてくれて
手をとった。

「……うん、うん。
悔やむ気持ちはわかります。
ご家族や友人のことを
なによりも
気にしてるんだよね?
でも今日は街も
混乱してるでしょうし、
ここにいたほうがいいわ。
ね?」

「……いや、しかし」

「お願い」

……これはまいったね。

燭台の火に灯された彼女は
蒸し暑い夜の空を
舞っているような
魅惑をもっている。