『でも、彼女と話して、もう僕はとっくに気持ちを吹っ切っていたんだと知ったよ』




お互いひとしきり笑った後に彼が穏やかな口調で言う。




『再会しても、話をしても。心は凪いだ海のように穏やかだった。

彼女が幸せならそれでいいと思えた。それに気付いた僕は前に進むことが出来る』




前に。




新しい恋に、進むための再会だったと。そういうこと?




言い切った彼が、私はとても羨ましく見えた。










『大丈夫』




不意に彼が私にそう声をかけた。




『今はまだ忘れられなくても、君もいつかちゃんと前に進めるから』





「ーっ、そう、ですね」



不安が顔に出ていたのかしら。今、欲しかった言葉を、この人は投げかけてくれる。




それは、今の私にとっては、言葉にならないほどに嬉しいことだ。





ありがとう、とお礼を言おうとしたまさにその時。



グイッと腕を引かれてカウンターの椅子から無理やり立たされる。



私の腕を掴む手の先を見上げれば、そこには何だか怖い顔で私を見下ろす義彦の姿。