[短編]お兄ちゃん、これからは

耳を疑った。

あたしを、好き。

そんなはずがない。

お兄ちゃんには彼女がいるのだから。

「妹と、して?」

自分で聞いといて胸が締め付けられるように苦しくなった。

「お前を妹としてなんか見たことねーよ」

お兄ちゃんは身体を少し離し、あたしの顔を覗き込むように見た。

その瞳はとても真剣だった。

顔と顔との距離が近くてお兄ちゃんの吐息があたしの頬を擽る。

「…うそ」

「誰がこんな嘘つくかよ。俺はお前を女として好きなんだ」

「だ、だって、お兄ちゃんには彼女がいるじゃない」

あたしは震える声を必死に抑えて言った。

「はぁ?俺に彼女なんていねーよ」

「嘘!お兄ちゃん、家の前で女の人とキスしてたじゃない!」

家の前でお兄ちゃんは確かにキスをしていた。

ちゃんとこの眼で、あたしは見たのだ。

「お前、見てたのか」

なんともばつが悪い顔をするお兄ちゃんを見て、あれはやっぱり見間違いではなかったのだと確信した。

「やっぱり、彼女がいたんじゃない」

「お前の目は節穴か」