［短編］お兄ちゃん、これからは

これでいい。

ずっと、お兄ちゃんの時間をあたしは独り占めをしていたのだ。

お兄ちゃんを自由にしてあげなければならないのだ。

あたしは必死に涙が出るのを堪えた。

だけど、涙はあたしの頬に一筋つたっていった。

「泣くぐらい辛いなら迷惑とか言うなよ」

その声と同時に頬につたった涙が暖かい手によって拭われた。

暖かい手は何度か頬を撫でたあと、俯かせていたあたしの顔を無理矢理上げさせた。

目の前には悲しみや苦しさが入り交じったような表情をしたお兄ちゃんの顔があった。

「そんなに、俺が頼りないか」

小さくて聞き取りにくい声で言ったけど顔が近かったお陰でしっかりと聞こえた。

「それとも、俺が嫌いになったか」

嫌いになんかなる筈がない。

ずっと、ずっと好きだったのだから。

否定したいのに思うように言葉が出てこない。

すると、いきなりあたしの視界は真っ暗になった。

頭が、ついていかない。

身体が何かに締め付けられていることで、あたしはお兄ちゃんに抱き締められているのだとわかった。

「俺は、お前が好きだ」