[短編]お兄ちゃん、これからは

「寧ろ、もっと甘えてくれていいし、わがままも言っていいぞ」

お兄ちゃんは頭を撫でながら、優しい瞳で、あたしを見て言った。

なんて、罪な人だろう。

そんなことを言われたら本当に甘えてしまう。

わがままを言ってしまう。

好きって伝えたくなる。

だけど、伝えてはいけない。

あたしはお兄ちゃんに相応しくなんかない。

あたしの身体は病弱だ。

医者はこれ以上は悪化しないと言った。

だが、良くもならないと言った。

こんな不安定な身体ではお兄ちゃんに一生迷惑を掛けてしまう。

そんなの、絶対に嫌だ。

お兄ちゃんには幸せになってほしい。

お兄ちゃんには身体の丈夫な、元気な普通の女の子が相応しい。

「十分、甘えてるよ。お兄ちゃんはすっごく頼りになるもん」

「そのわりには頼られてる気がしねーんだけど」

お兄ちゃんはあたしの言葉を信じず疑うような瞳で見つめた。

「そんなこと、ないよ」

お兄ちゃんは鋭いからあたしの嘘は直ぐにわかってしまう。

でも、この気持ちだけは死ぬまで言わない。