「……手、振ってた……」
のろのろと、バンザイの形をした両腕を下ろす。
何でこういう時に限って来るの?!
タイミング悪すぎる!
「ふーん。まぁいいか。これ」
架月が差し出した手に持っているものは、可愛らしいバスケットに入ったフルーツ。
「可愛いね。架月が買ったの?」
「そうだけど」
「ふふ……!お店の人、びっくりしただろうね……!」
「悪いかよ」
「いいや、ありがとう」
両手でバスケットを抱き、じっと見つめる。
せっかく架月が来てくれたんだ。
ちゃんと、言わなくちゃ。
「ねぇ」
「何だよ」
これからの事。
今、言っておかないとすぐに忘れてしまいそう。
「これから私、ちゃんと女の子らしくなるよ」
初めて“カレシ”なんて呼べる相手が出来た。
異性で、こんなに大切だと思える人が、私にも出来た。
「もっと、お淑やかで、上品な人になる」
これは私が決めた事。
ガサツな女として永くいられない。
「だから、頑張る」
「そうか」
柔らかく笑い、髪をクシャクシャと撫でる。
「俺はそのままでも好きだけど、満原が頑張るんならいいんじゃねーの?」
「サラッと『好き』とか言わないで」
「はいはい」
聞き逃してしまいそうだけど。
聞いたら恥ずかしい。
横目でチラリと見ると、私の様子をさも楽しげに見ている。
絶対いつかは逆の立場になってやる……!