人間は、すねが弱点らしい。
弁慶の泣き所という言葉が出来たのも、不思議ではない。
彼もすねを蹴られたら、ひとたまりもないだろう。
「ッ……!痛ッ……」
やっと唇が離れた。
目の前に彼が居るにも関わらず、大きく深呼吸した後、ハンカチで唇をゴシゴシと拭う。
そして、鞄を持って、足早に彼の前から過ぎ去ろうとする。
「待てよ」
がっしりと腕を掴まれて、立ち止まる。
「……何?」
「何か言う事ねーのかよ」
「別に何一つ無いけど」
「何か言えよ」
「言っていいんだ?」
「は?」
「何か言え」。
今確かに、彼にそう言われた。
これなら思い切り、彼に対して何でも言えるという訳だ。
私は、彼の方を見上げて、軽く笑う。
「架月は最低な人間だなーって。
好きでもない人とキスするなんて、馬鹿みたいだよね。
コレ何?なんの罰ゲーム?嫌がらせ?」
アンタなんか、大嫌いだ。
ざまあみろ。
そんな事も考えたが、一時も早く、早く逃げたかった。
そして私は余計なもう一言。
「架月の唇は、人を傷つけるのが上手だね」
私の最大級の嫌みを、彼にぶつけてやった。


