黙って頷くと、「こんな時ぐらいは俺に頼れよ!」と、小野寺もくるりと踵を返し、走り出した。
「これから決勝だって言うのに……」
後ろで係員がぶつぶつと文句を言うのを聞き流しながら、私は真っ直ぐ、試合会場へ向かった。
「先輩!!」
入口に入った途端、田崎さんが駆け寄ってきた。
「千波先輩が来ないんです!」
他の部員も携帯で連絡を取ろうとしたのだが、無理だったらしい。
本当の事を言うべきかどうか迷ったが、私は笑顔で嘘を吐く。
「ちょっと用事があるんだって」
手首の怪我で、ただでさえ心配させているのに。
この子たちを心配させちゃいけない。
「満原」
呼ばれたほうを向くと、顧問が眉間にしわを寄せて立っている。
「お前の左腕の事だが、今回は向こうに頼んで、1回きりの勝負にしてもらった……。
無理はするな。でも、最後まで闘ってこい」
怪我をしていない右肩を軽く叩き、応援席の方へ戻っていく。
配慮、か。
向こうにとっては、何とも面白い結果になった事だろう。
防具を着けながら、杉村さんを見る。
まだ防具を着けていない彼女は、私の方を真っ直ぐ見て、ニヤリと笑った。
絶対、杉村さんなんかに、負けない。
ぎゅっと、きつく面紐を結び。
竹刀を固く握りしめ、立ち上がった。


