「小野寺……」
彼は息を切らし、肩を上下に激しく動かせている。
落ち着かない様子で、私の肩を掴んで、
「剣ちゃん、鈴音に聞いたけど……。怪我、大丈夫かよ?」
と言った。
「まあね」
「それと早川さん、どこ行ったか知らね?鈴音もどっか行っちゃったし、玲佳も居ねーんだよ……!」
え?
「……嘘」
その言葉だけが、ポトリと落ちる。
「嘘じゃねーよ!捜しても見当たらないし……」
まだ整っていない呼吸で、必死に話す小野寺。
係員が、私たちをじろりと睨む。
「早く行きなさい」
不機嫌そうな顔を浮かべて、私に言う。
「でも……」
「もう時間なんだ」
面倒臭そうに、時計を私に見せる。
試合は大事。
でも、千波と鈴音と架月の方が、もっと大事。
「剣ちゃん」
小野寺が、やっと落ち着いた声でこう言った。
「試合、勝ってこいよ」


