紳士的なLady




……何て事をしてしまったんだろう。



階段の固い感触を背中で感じながら、今までに無い絶望感を味わっていた。

さほど痛みは無かったものの、左手首を捻ってしまったようだ。



最悪だ。
私の馬鹿。



試合前の程よい緊張感と、妙な胸騒ぎ。

私は焦っていたのかもしれない。


だから、こんな目に遭ってしまったんだ。

タイミングが悪すぎる。



「すみませんでしたっ!!」



身体を折り畳むようにして謝る女子に、私は何も言えない。

痛いのと、絶望感と。


「はは……」と、空虚な笑いだけが、私を突いて出ていくばかり。




「ちょっと!剣は昼から決勝戦なのに……!」

「鈴音、いいよ」




私よりも顔を真っ赤にして怒る鈴音を手で制し、彼女に言葉をかける。



「ごめんなさい。私も余所見してたから」



いつものように、「怪我は無い?」なんて、訊けなかった。

そんな余裕、今の私には何処にも無い。



彼女は頭を上げて、再度、「本当に、すみませんでした」とだけ言うと、逃げるように走って行った。



「何?あの子。サイッテー!」



鈴音は悪態を一つ吐くと、すぐに私の元に駆け寄る。


「左手首、腫れてる。剣、すぐに手当てするから」


私の肩を擦りながら、階段を上がって行く。

このままじゃ、危ない。




なんだか、変な気がしたのだ。



さっきぶつかった子と、千波を連れて行ったあの3人。


同じ制服だった。