本当なら、睨みつけてやりたいけど、止めておこう。
またあんな視線を向けられそうだ。
何も考えていないような、そんな目でぼんやりと彼を見ていると、フイッと彼の顔が視界から消えた。
は?
突然、私の視界から消えた彼が行った方向を見ると、私の机の横にしゃがんでいる。
はい?
何するつもりなんだ、彼は。
じっと、黙って彼を見る。
彼は、自分の細く長い、綺麗な指で、金具と鞄とが絡まっている部分を丁寧に解いていく。
2分程経つと、カチャンッと金属同士が触れる無機質な音が、2人だけしかいない教室に響いた。
「はい」
中身が教科書とノートでいっぱいになっていて重いはずの鞄を、彼は軽々と片手で持ち上げて、それを私の前に突き出す。
あまりにも意外な事に、わたしはポカンとしたままだ。
まさか、彼がこんな事をしてくれるとは。
私を馬鹿にするだけ馬鹿にして、さっさと帰ってくれると思ってた。
意外すぎる事に、やはり私は、目の前に立っている彼を口を開けたまま見る事しか出来ない。
「……満原のくせに、すっげーアホ面してんな」
彼の皮肉が聞こえたが、そんなの今の私に怒る気力もない。
ただただ、呆気にとられただけだ。


