「よし、準備できたか?」
あれから拓馬はずっとビービー言っていたが仕事を頼むと素直にそれに従った。
「うん、オッケー」
チューニング(音合わせ)を終えた俺たちは顔を見合わせた。
「波瑠斗ー!楽、教室で勉強してたぞ」
1組に偵察に行った拓馬が帰ってきた。
「拓馬、ドアも窓も全部開けてくれ」
できるだけ音がよく通るように。
それだけを考えてドアも窓も開ける。
たった10分。
たった10分だけだから。
だから頼む、みんな。
静かに俺たちの音を聞いていてくれ。
「よし、じゃあカノンロックで」
「了解」
カノンロックとはクラシックで有名なカノンをロック調にアレンジした曲だ。
俺と朝陽は同時にアンプ(スピーカー)のスイッチオン。
そして1度深く深呼吸する。
次の瞬間、俺たちのギターから放たれた音色たちが高校中を駆け巡った。


