「…ああ、良かったよ。
鳥肌が立った」
エトーのその言葉に思わず、ガッツポーズをしそうになる。
「ん?どうした?エトー。
なんか悲しそうな顔、してない?」
だけど、エトーのどこか寂しそうな表情が気になって。
ガッツポーズは堪える。
「いや、ただ思い出しただけだ。
俺が高校生で初めてバンド、組んだ時のこと」
懐かしそうにエトーは遠くを見つめる。
「お前らみたいに経験者が集まったバンドじゃなかったからな。
大変だったよ、最初は。
全員、楽器すら初めてで。
右も左も分からなくて。
それでも半年かかってようやく、バンドと呼べる演奏ができるようになったんだ」
そうだったのか。
じゃあたまたま経験者が揃えれたのはラッキーだった、ってことか。
「まあそれからいろんなことがあってな。
でも、今思い返すとあの頃はすげー楽しかったな、って思ってさ。
お前らが演奏してるときの顔、見てたら、
そんな昔のことを思い出したんだ」
俺も、楽も澪も朝陽も、美雪も。
誰も何も言わない。
エトーの言葉を待っていた。
「…俺、本当にお前ら信じて良かった。
ホント…良かった…」
エトーの声は震えていて。
「バーカ。
何泣いてんだよ、クドーせんせ。
まだ、ここで終わりじゃないんだ。
今俺たちはやっと、スタートラインに立った。
これからなんだよ。
俺たち、軽音楽部は。」
顔を上げたエトーと目が合った俺は思いっきり生意気な笑顔を見せた。


