「よお」


自転車にまたがっていたのは、壮吾だった。


朝日に細めていた目を、今度はぐっと見開く。


「おまえさ……。もっと気持ちのいい反応はできないのか。人を化け物みたいに見やがって」

「か、風邪は? もう平気なんですか?」

「ああー。 そういえば俺、風邪ひいてたんだっけ?覚えてねー」


そう言った壮吾は、私の頬をつねってきた。


「いたっ!!」

「んな、大袈裟な」


本当は、壮吾につねられた頬なんて全く痛くなかった。


だけど、忙しく脈打つ鼓動を悟られたくなくて、わざと大きなリアクションをしたんだ。


苦笑する壮吾が眩しい。


声をかけられただけで調子が狂うようだったら、これから先、どんなに心臓があっても足りない気がする。


「乗れよ」

「え?」

「遅刻する」