俺はいま落ち着いた気持ちでいる。 トンネルに差し掛かる心境と、早い感覚で毎年歳を重ねる心境が一致していた。 つまり、さほどの緊張感も恐怖も抱いてなどいないということだ。 俺なりに悔いを残す事はない。 やれることはやった! そろそろ目を閉じよう。 この穏やかな気持ちなら、きっと自然に死ねる。 ここで一つ深呼吸をしてみよう。 大きく息を吸って大きく吐いた。 体の中を何かが引っ掛ける。 (んっ?) 運転手は言った。 「あなたは誰か大切な人を忘れていませんか?」