涙の宝器~異空間前編



俺はいま落ち着いた気持ちでいる。


トンネルに差し掛かる心境と、早い感覚で毎年歳を重ねる心境が一致していた。


つまり、さほどの緊張感も恐怖も抱いてなどいないということだ。



俺なりに悔いを残す事はない。


やれることはやった!


そろそろ目を閉じよう。


この穏やかな気持ちなら、きっと自然に死ねる。


ここで一つ深呼吸をしてみよう。


大きく息を吸って大きく吐いた。


体の中を何かが引っ掛ける。



(んっ?)



運転手は言った。



「あなたは誰か大切な人を忘れていませんか?」