駅に向かって、電車に乗って二つ目の駅。

そこから歩いて3分。

蓮は一軒の家の前で立ち止まり見上げた。

昨日も来たこの場所で蓮は携帯を眺めた。

時刻は10時過ぎ。

さすがにチャイムを押すわけにもいかず、蓮はただ二階の窓を眺めた。

かすかに動く人影。

その人影は立ち上がり長い髪を揺らした。


「美優!」


思わず口にした声に反応して影の動きが止まる。

カーテンがゆれ、そのスキマから美優の黒髪が見えた。


「美優!」


もう一度呼ぶ。

カーテンが開けられ、美優の驚いた顔がそこから見えた。

出窓が開けられ、美優の髪が夜風に揺れる。


「蓮くん?」


その声が蓮に響く。


「どうしたの?」


聞こえるか聞こえないかのギリギリの声。

蓮はただ、笑顔を美優に向けた。

美優は窓を閉め、カーテンも閉じた。

その部屋の明かりが消える。

しばらくして、ショールを羽織った美優は玄関のドアから出てきた。

初めてみる私服の美優。

マキシ丈のロングワンピにカーデを羽織り、その上にピンクのショール。


「どこ行くの?」


中から聞こえてくる母親らしき優しい声。


「ちょっと、コンビニ」


美優はそう言うとドアを閉めた。