剣と日輪

 なんかを聴かせてやった。
 四月中旬の日没時、公威が所用で上官室に立寄ったところ、幹部連中が晩餐をとっていた。食卓には刺身や酒、寿司、天麩羅といった高級食膳が、所狭しと陳列してあった。
(俺達や台湾人には芋や豆しか食わさぬ癖に)
 公威は、
(お前等は人間じゃない)
 と魂魄裡で批難したが、無論上司の心には届かない。
 公威はあの状景を目撃してから、似非軍人の、
「特権意識」
 の熾烈さに嫌気を覚え、何だか肉体労働で彼奴等を補助するのが馬鹿馬鹿しくなってしまった。二月の入営検査時に、
「肺浸潤」
 と誤認された診断書を上申して、図書館に転属を申し出、それは承諾されたのだった。

 五月ニ十四日、帝京の闇夜は再びB29で埋まった。常夜の空路から止めど無く流れ落ちて来る滝水かと見紛う爆裂弾が東の星星の煌きを薄め、燦燦と照射し合っている。
(丸で一瞬の夏空の様だ)
 公威は見物しながら、その景観に見惚れていた。勿論、
「あの光の下には、親兄弟が居る」
 と理解はしている。
「死」
 と、
「生」