三谷夫人がチョコレートを授けた。
「平岡さんって、催促上手ね」
次女がからかった。
「頂きます」
公威はチョコが好物だった。チョコレートは今やレア物である。三女が涎を垂らしそうな視感で、公威の口許を凝視している。
「はい」
公威は板チョコを半分三女にあげた。
「有難う」
三女は躍り上りそうな勢いで受取り、性急に頬張った。次女があんぐりと開口している。
「はい。あげるわよ」
邦子が次女にチョコクッキーを与えたので、場は鎮静した。
「ところで」
三谷が山々の彼方、南東の方角を指しながら、喋った。
「昨夜、あの東京方面の夜空が夕焼みたいに真赤だったよ」
「うん。そうらしいね」
邦子以外は相槌を打った。
「貴様の家も、家も無くなってるかもしれん。あんなに東京の方角の空が鮮烈だった事ないからね」
三谷は昂然(こうぜん)と説諭し始めている。
「これから、益々空襲は激しくなるだろう。この度は偶々上州に居たから助かったが、明日以降は分からない。お母様」
三谷の眼は真正(しんせい)に迫(はく)切(せつ)していた。
「一日でも早く、疎開してください。でないと、僕は夜もおちおち寝られない。いいですね?」
「そうね」
「平岡さんって、催促上手ね」
次女がからかった。
「頂きます」
公威はチョコが好物だった。チョコレートは今やレア物である。三女が涎を垂らしそうな視感で、公威の口許を凝視している。
「はい」
公威は板チョコを半分三女にあげた。
「有難う」
三女は躍り上りそうな勢いで受取り、性急に頬張った。次女があんぐりと開口している。
「はい。あげるわよ」
邦子が次女にチョコクッキーを与えたので、場は鎮静した。
「ところで」
三谷が山々の彼方、南東の方角を指しながら、喋った。
「昨夜、あの東京方面の夜空が夕焼みたいに真赤だったよ」
「うん。そうらしいね」
邦子以外は相槌を打った。
「貴様の家も、家も無くなってるかもしれん。あんなに東京の方角の空が鮮烈だった事ないからね」
三谷は昂然(こうぜん)と説諭し始めている。
「これから、益々空襲は激しくなるだろう。この度は偶々上州に居たから助かったが、明日以降は分からない。お母様」
三谷の眼は真正(しんせい)に迫(はく)切(せつ)していた。
「一日でも早く、疎開してください。でないと、僕は夜もおちおち寝られない。いいですね?」
「そうね」


