三谷の掌(てのひら)は氷宛(さなが)らに冷却され、罅(ひび)割れが目立つ。感触は剣道の篭手(こて)に酷似している。
「ごっつい手だなあ」
 公威は薄笑いし、三谷の右手を瞻視(せんし)した。
「ふふ。貴様の手は相変わらずだな」
 三谷の発する、
「貴様」
 という語感が、公威には新鮮だった。
「厳しいか?」
「ああ。でもやり甲斐はある」 
 三谷の口(こう)言(げん)に、公威は医師の誤診を幸いのうのうと生きている我が身を恥じた。
「立派だな」
「貴様は残念だったな」
「まあな」
「外へ出よう」
 三谷の後から六人は営庭(えいてい)に降りた。彼方(あち)此(こ)方(ち)で血族のリラックスタイムが、咲き誇っている。公威は、
(お邪魔かな)
 と遠慮しようとしたが、三谷が話しかけてきたので、三谷を囲繞(いじょう)する車座の一角と化した。芝生(しばふ)に尻をつき、西洋菓子を味わう。
 三谷は、
「ケーキなんて、入営して以来だ」
 と貪り食っている。
「矢張り、身体使うから腹減るだろうな」
 公威は小食故に、健啖家を仰視してしまう通弊がある。ついそう口走った。
「貴方もどうぞ、遠慮せずに」