「あら」
邦子も相手の肩を叩き返し、二人は偶然の遭遇に喜悦している。
「おお、邦子ちゃん」
乙女の親らしきスーツ姿の中年紳士が、中折帽(なかおれぼう)を取って恭しく問うた。
「何処へ行かれるのかな?」
「はい。群馬に居ります兄に会いに参りますの」
邦子は上品に受け応えをした。
「ほう、君達だけで?」
紳士は三姉妹と、頼りなげな公威を見遣っている。
「いえ、直母と祖母も参ります」
「そうですか。では私共と一緒ですな。同行しませんか?」
紳士一行は女中を入れて三名である。
「宜しいんですか?」
「構いませんとも。どうせ目的地は同じだ」
紳士は公威に、名刺を差出した。
「私こういうものです。以後お見知りおきを」
公威は名刺を受け取るや、素早く名乗った。
「東京帝国大学法学部一回生、平岡公威と申します」
「おう、帝大生さんか。道理で頭のよさそうな顔をしていると思った」
「とんでもありません」
公威はネームカードの肩書を素読した。
「大庭と申します。銀行の頭取をしております」
「そうですか。凄いですね」
「うちの娘と邦子さんが仲が良くてね。うちの息子も群馬の部隊に居るんですよ」
邦子も相手の肩を叩き返し、二人は偶然の遭遇に喜悦している。
「おお、邦子ちゃん」
乙女の親らしきスーツ姿の中年紳士が、中折帽(なかおれぼう)を取って恭しく問うた。
「何処へ行かれるのかな?」
「はい。群馬に居ります兄に会いに参りますの」
邦子は上品に受け応えをした。
「ほう、君達だけで?」
紳士は三姉妹と、頼りなげな公威を見遣っている。
「いえ、直母と祖母も参ります」
「そうですか。では私共と一緒ですな。同行しませんか?」
紳士一行は女中を入れて三名である。
「宜しいんですか?」
「構いませんとも。どうせ目的地は同じだ」
紳士は公威に、名刺を差出した。
「私こういうものです。以後お見知りおきを」
公威は名刺を受け取るや、素早く名乗った。
「東京帝国大学法学部一回生、平岡公威と申します」
「おう、帝大生さんか。道理で頭のよさそうな顔をしていると思った」
「とんでもありません」
公威はネームカードの肩書を素読した。
「大庭と申します。銀行の頭取をしております」
「そうですか。凄いですね」
「うちの娘と邦子さんが仲が良くてね。うちの息子も群馬の部隊に居るんですよ」


