「自首したまえ」
全てを見取った益田総監は、疲れ切っていた。
「貴方をお返しするまで護衛します」
小川は涙声である。
「このまま渡すのか。私は暴れたりしない」
小川は益田総監を、ロープから解き放った。
古賀は返り血に染まりながら、公威と必勝の首級を整然と並べ置いた。小川、小賀も必勝と公威の胴体を、各々が脱ぎ捨てた楯の会の制服で覆被(ふくひ)した。
三名はすすり泣きながら、師と同志に合掌した。
「思い切り泣くがいい」
益田総監の両瞳も潤んでいる。
「私にも拝ませてくれ」
益田総監は殉国の士に、心から手を合わした。紅色の絨毯は真紅の河だった。血染めの床に、神光が煖(だん)気(き)を運んだ。二つの首が煦煦(くく)されている。
「終った」
古賀、小川、小賀はバリケードを解除した。古賀、小川は、
「御運びします」
と益田総監を挟んで廊下まで支えた。自衛隊の警務隊が、益田総監の身柄を譲り受けた。
「大丈夫だ」
益田総監は自ら廊下を踏みしめた。小賀が関の孫六を牛込署員に渡した。三人は手錠をかけられると、粛然と連行されていった。
梓は茶の間で昼のニュースを見ようとNHKのチャンネルに合わせた。ニュース速報の、
「三島由紀夫が自衛隊に乱入」
全てを見取った益田総監は、疲れ切っていた。
「貴方をお返しするまで護衛します」
小川は涙声である。
「このまま渡すのか。私は暴れたりしない」
小川は益田総監を、ロープから解き放った。
古賀は返り血に染まりながら、公威と必勝の首級を整然と並べ置いた。小川、小賀も必勝と公威の胴体を、各々が脱ぎ捨てた楯の会の制服で覆被(ふくひ)した。
三名はすすり泣きながら、師と同志に合掌した。
「思い切り泣くがいい」
益田総監の両瞳も潤んでいる。
「私にも拝ませてくれ」
益田総監は殉国の士に、心から手を合わした。紅色の絨毯は真紅の河だった。血染めの床に、神光が煖(だん)気(き)を運んだ。二つの首が煦煦(くく)されている。
「終った」
古賀、小川、小賀はバリケードを解除した。古賀、小川は、
「御運びします」
と益田総監を挟んで廊下まで支えた。自衛隊の警務隊が、益田総監の身柄を譲り受けた。
「大丈夫だ」
益田総監は自ら廊下を踏みしめた。小賀が関の孫六を牛込署員に渡した。三人は手錠をかけられると、粛然と連行されていった。
梓は茶の間で昼のニュースを見ようとNHKのチャンネルに合わせた。ニュース速報の、
「三島由紀夫が自衛隊に乱入」


