剣と日輪

 と記す予定を組んでいたのである。公威は、
「いいよ」
 と渥沢(あくたく)の熙笑(きしょう)を送り、ブロバー米国製腕時計を外した。時価五十万のブランド品である。
「これをおまえにやろう」
 小賀は師の形見を拝受した。
 公威は鎧通しを諸逆手に持った。必勝も上段に構える。
 公威の物凄い気合が、室内に響動(きょうどう)した。公威は左脇腹に全力を込めて小刀を突刺し、更に横一文字に切り裂いた。十三センチも切り開かれた腹から臓物が迸(ほとばし)り出、公威は恍惚となって仰(の)け反った。
「介錯するな!」
 益田総監が狂乱している。
 必勝は公威が天を仰いでいるので、介錯に手間取った。一太刀振り下ろしたが、公威が蠢(うごめ)き右肩に刺さってしまった。公威は苦痛で正気を取り戻し、前のめりになった。必勝が介錯し易いように、自らの意思でうつ伏せたのである。
 必勝は剣を肩から抜き、二太刀目を浴びせた。首に命中したが当たり所がずれ、頸部(けいぶ)が半分とれた公威のか細い呻きが、惨場と化した総監室に流れる。
(先生を苦しませてはならない)
「森田さん頑張れ」
「もう一太刀」
 小賀と古賀が声援する。正面ドアに仁王立ちする小川も、息を詰めている。
 必勝は三太刀目を振るったが、公威の首は離れない。必勝は、
(申し訳ありません)
 と侮恥(ぶち)し、関の孫六を古賀に託した。
「頼む」