剣と日輪

んだよ。諸君は武士だろう。武士ならば、自分を否定する憲法を、何故守るんだ。どうして自分らを否定する憲法というものにペコペコするんだ。これがある限り、諸君は永久に救われんのだぞ。政府の政治的謀略によって、諸君が合憲かのごとく装われているが、自衛隊は違憲なんだ。貴様達も違憲だ。自衛隊は、憲法を守る軍隊になったのだということに、どうして気がつかんのだ!俺は諸君がその忌まわしい柵(しがらみ)を断つ日を、待ちに待ってたんだ。諸君はただ小さい枠の中の正義ばっかりに惑わされて、救国のためにたちあがる秋を知らない」
「なぜ我々の上司、同僚を傷付けたんだ」
「抵抗したからだ」
 公威は即答した。
「日本を骨なしにした憲法に従ってきた、ということが分からんのか。諸君の中に、一人でも俺と一緒に起つ奴はいないのか?」
 自衛官達は急に大人しくなった。
(沈黙の軍隊か) 
 目前の自衛官達は、軍人でも国士でもない。ただの役人に過ぎない、問いかけた公威の側で必勝は瞑目(めいもく)した。
(最早未来の日本人に賭けるしかない。未来の日本人を覚醒させるべく、先生と俺は腹を切る)
 公威もそういう結論に、行き着いた。もう楯の会隊員がこの場に来ていない事など、どうでもよい。ふと車寄せ左手前で熱心にメモるサンデー毎日の徳岡記者が、目に付いた。
(よくよく書きとめよ!)
 そして機動隊の一部が一階に突入していく様子が、まざまざと刻み込まれた。
「一人もいないんだな。よし!武というものはだ、刀というものはなんだ。自分の使命は何か考えた事があるのか」
「卑怯者!」
 この罵倒に公威は、憤激した。
「それでも武士かぁ!それでも武士かぁ!まだ諸君は憲法改正のために起ち上がらないと、見極めがついた。これで、俺の自衛隊に対する夢はなくなったんだ。俺は、天皇陛下万歳を叫ぶ」