を見納めたのだった。
その夜必勝は帰京するや、最近付き合い始めた恋人に電話をかけ、小林荘へ呼び出した。恋人は初恋の人牧子に、酷似している。新宿の深夜バーのレジで働く妍冶(けんや)である。カップルは盛り上がり翌二十三日午前二時、深夜スナック、
「シャトレ」
へ出掛け、そこで一夜を明かしたのである。
雀が鳴き始めた頃、必勝は始発電車が発車する駅の前に居た。恋人は、
「又」
と、ビルに遮られた清清しい朝陽を思わせる一笑を残して、人未だ疎(まば)らな駅に歩んでいった。
必勝はふと、
(もう一度故郷を見たい。牧子に会いたい)
と思人(しじん)した。時間は無い。だがどうしても今一度牧子の顔を拝みたい。それだけでよかった。
(そうだ。今日と明日の予行練習の合間に、帰ろう)
必勝は、
(どうせ明後日には永眠するんや。眠らんでもええやろ)
と秘計を肯定せずにいられなかった。
公威は二十二日に弟千之の一家四名と、夫人、子供達を連れて、夜食会を持った。場所は新橋駅より徒歩五分の、明治四十二年創業の鳥割烹、
「新橋末げん」
である。
八人で、
「わのコース」
その夜必勝は帰京するや、最近付き合い始めた恋人に電話をかけ、小林荘へ呼び出した。恋人は初恋の人牧子に、酷似している。新宿の深夜バーのレジで働く妍冶(けんや)である。カップルは盛り上がり翌二十三日午前二時、深夜スナック、
「シャトレ」
へ出掛け、そこで一夜を明かしたのである。
雀が鳴き始めた頃、必勝は始発電車が発車する駅の前に居た。恋人は、
「又」
と、ビルに遮られた清清しい朝陽を思わせる一笑を残して、人未だ疎(まば)らな駅に歩んでいった。
必勝はふと、
(もう一度故郷を見たい。牧子に会いたい)
と思人(しじん)した。時間は無い。だがどうしても今一度牧子の顔を拝みたい。それだけでよかった。
(そうだ。今日と明日の予行練習の合間に、帰ろう)
必勝は、
(どうせ明後日には永眠するんや。眠らんでもええやろ)
と秘計を肯定せずにいられなかった。
公威は二十二日に弟千之の一家四名と、夫人、子供達を連れて、夜食会を持った。場所は新橋駅より徒歩五分の、明治四十二年創業の鳥割烹、
「新橋末げん」
である。
八人で、
「わのコース」


