剣と日輪

(これは、一度早い内に上京し、あわんにゃならん)
 清水は神童から、文豪へ、そして国士へと変貌していく教え子の行末を、濁流に漂う花(はな)弁(びら)のように感じ、助力を密かに決意したのである。

 娯楽の殿堂、
「日本劇場」
 の楽屋に、数百本の薔薇を抱えて公威がおとなったのは、十一月十八日だった。
「美の化身」
 丸山明宏に、公威はそれらを手渡しして、手首にキスをした。
「秋の踊り」
 閉幕直後の丸山は、今迄こんな多量の花束を見たことが無い。
「相変らず派手ね」
 と若干恥らっている。二人の間には肉体関係は無い。美丈夫な丸山は、公威には手の届かないビーナスである。
「何十年分?」
 丸山が薔薇を嗅ぎながら尋ねると、
「一生涯分。もうこれないから」
 と公威は真顔で答えた。
「どういうこと?」
 丸山は直感で、
(この人は死のうとしている)
 と看破してしまった。
「君は本当に美しい。薔薇よりもね。君も綺麗だっていう僕の言葉を聞き飽きただろうから、もう楽屋には来ないよ。美人に飽きられたくないから」
 公威は照れ笑いしながら、楽屋を去った。風のようだった。