剣と日輪

「よし」
 必勝はビールグラスをとった。
「死出の祝いだ」
「おう」
 三人の壮士はグラスをぶつけ合い、一気飲みをした。そして一挙に殉じる己に、酔い潰れたのだった。
 
 九月三日木曜日夕刻。公威はストークス邸に招かれていた。ストークス宅には女優の大原麗子等も同席していた。ストークスは大原の美態を褒めちぎり、公威は食傷気味だった。晩餐前公威は床に投げ捨ててあったクッションに腰掛け、スコッチウイスキーをチビリチビリやりながら、ナッツを噛んでいた。キッチンでストークスがメインデイッシュであるビフテキを調理していると、公威は空を空ろに見上げたまま、
「日本の英雄」
 について語尾を繋げていった。
「古来、日本武尊(やまとたけるのみこと)より、義経、楠公、信長、西郷、松陰、竜馬等日本のヒーローは全て挫折してきた。何れも哀れな末路を辿ったのだ」
 ストークスと大原は公威の余りにも沈んだ喉の振るえにぞっとして振り向いた。丸で恐山のイタコの如く、憑かれたように言の葉を発する公威がブラックシャドーと化している。
「自分が中でも惹かれるのは、大塩平八郎だ。彼は天保の飢饉に際し、大坂城内の非常用米を飢民に振舞うよう申し入れたが聞き入れられなかった。私財を投げ打って窮民を救済したが間に合う筈も無い。幕府の役人は下々の飢餓をよそに豪商と癒着し、私利私欲に走っていた。大塩は決起し弟子や農民達三百名と救民の旗印を掲げて大坂城内の米を民に配布すべく大坂城襲撃を企てたが、僅か半日で鎮圧された。大塩は潜伏先の家を幕吏に包囲され、自焼して果てたのだ」
「おお。凄い人ですねえ」