美津子は梓と相貌(そうぼう)が酷似していて、瓜実(うりざね)顔で痩せぎすである。おでこを出し、肩迄垂らしたやや細めの頭髪に白いリボンを着けていた。正月らしく振袖(ふりそで)で着飾っている。美津子のおしとやかな令嬢振りは、両親の誉(ほまれ)であった。
「いただき」
こまっしゃくれた五分刈で丸顔の千之が、箸で鶏肉をすくい、忽ち咀嚼(そしゃく)した。千之は学校の成績は公威程良くないが、末っ子らしい陽気で甘ったれた言動で、平岡家の陽光的役割を担っている。日頃から梓に、
「お兄ちゃまを見習って、もう少し勉強に励め」
と優秀な兄と比較されて訓諭(くんゆ)されるので、最近やや反抗期となっている。
「はは」
「ほほほ」
千之の行儀の悪さに母と兄妹は哄笑したが、梓だけは膨れっ面になり、
「千之。渇しても盗泉は飲まずと言うぞ。みっともない真似は止せ」
と叱った。
千之のスマイルが途切れた。
「盗泉じゃねえや」
「何!」
梓が汁椀と箸をテーブルに勢いよく置いた。
「もう一遍言ってみろ」
「千之」
美津子が立ち上がり、千之に哀願した。
「お父様に謝って。ね?」
「お父様に口応えしちゃいけません」
倭文重も千之を咎めた。
「いただき」
こまっしゃくれた五分刈で丸顔の千之が、箸で鶏肉をすくい、忽ち咀嚼(そしゃく)した。千之は学校の成績は公威程良くないが、末っ子らしい陽気で甘ったれた言動で、平岡家の陽光的役割を担っている。日頃から梓に、
「お兄ちゃまを見習って、もう少し勉強に励め」
と優秀な兄と比較されて訓諭(くんゆ)されるので、最近やや反抗期となっている。
「はは」
「ほほほ」
千之の行儀の悪さに母と兄妹は哄笑したが、梓だけは膨れっ面になり、
「千之。渇しても盗泉は飲まずと言うぞ。みっともない真似は止せ」
と叱った。
千之のスマイルが途切れた。
「盗泉じゃねえや」
「何!」
梓が汁椀と箸をテーブルに勢いよく置いた。
「もう一遍言ってみろ」
「千之」
美津子が立ち上がり、千之に哀願した。
「お父様に謝って。ね?」
「お父様に口応えしちゃいけません」
倭文重も千之を咎めた。


