剣と日輪

 思えば大学へ入学してからというもの、それまでの安穏とした田舎暮らしが一転して、目まぐるしい流転の只中で生きてきた。
(何だかもう一生分生きたような気がする)
 明日黄泉(よみ)の国へ旅立っても一片の悔いも無し、と言い切れそうだった。
 必勝は、
「もう卒業後なんて僕には無いのさ」
 と冗談ぽく宣言しようとしたが、牧子に見透かされそうな気がして、話題を他に転じたのだった。
 必勝は森田家に戻ると、自室に寝転がり、うとうとし始めたが、寝つけはしない。次から次へと思惑が浮び、そしてとりとめのない思(おもい)種(だね)を齧(かじ)り始めている。
 公威から聞いた話だが、満二十九歳で刑死した吉田松陰は、死ぬ前にこう述懐したという。
「人生には四季がある。百歳で死のうと、十歳で死のうと、時間の長短に関係なく春夏秋冬というものは必ず人生を巡る。そしてその人の人生が其処で終るか否かは、その人の志を継ぐ者がいるかいないかで決まる」
 必勝の志は日本を独立国に戻す、これに尽きる。その志を持つ者は、共産主義、無政府主義者が幅を利かす昭和元禄の日本では、
「右翼」
 という悪魔の化身とされるのである。共産主義者は世界を共産党独裁政府が支配する為に、日本の独立、アメリカの衛星国たる国情を非とし、無政府主義者は政府そのものをこの世から無くして、無秩序で荒廃した無茶苦茶な社会を望んでいる。