剣と日輪

 突拍子も無い発想だった。だがこういうことを真っ白な歯を誇示しながら、発言するのが必勝だった。
「火器を持たない楯の会と自衛隊有志だけで、そんなことができるだろうか?武器はどう調達する?火器を持たぬ集団等、デモ隊と同じだ。自衛隊が出動すれば、彼我の武力差は話にならんぞ。又今は国会会期中だ。そんなことをすれば国民の反感を買い、我々は汚名のみを残す事になろう」
 公威は必勝の作戦の盲点を衝いた。けれども構想自体は全否定しない。
「それは、これから詰めていけばいいと思います。ただ楯の会としては仮に政権を奪取したとしても、後は自衛隊に一任し責任をとり、腹を切らねばならない」
「覚悟はあるのか?」
「あります」
「犬死の覚悟だぞ。例えば若し駐留米軍基地問題が拗れ、邦人学生がアメリカ兵に射殺される現場に居合わせたらどうする?しかもその学生は共産主義者だったら」
 必勝は間髪を入れずに、
「邦人学生を守る為に、アメリカ兵を襲います。殺してしまったならば、その場で自殺し、責任をとります」
 と明答した。
「その意気やよし。武士に二言は無いな」
「はい」
「では我々の今後の指針を、赤誠に求めよう」
 楯の会幹部達は二人の世界にぐいぐい引き込まれていく。
 楯の会はこれまで、
「共産主義・無政府主義者から祖国を死守する」
 という受動的活動方針に沿って、行動してきた。それがこの日を境に、
「楯の会が自発的に、日本の為に立ち上がる。日本復活の嚆矢(こうし)となる」
という能動的活動方針に大転換していくのである。その発火点は必勝だった。