公威が乾杯の音頭をとると、待ちかねた学生達は思い思いに箸をとり、ギョーザや麻婆豆腐、酢豚や北京ダック、焼売、炒飯等に群がった。
「うめえなあ」
「三島さんはいいなあ。こんな綺麗で料理の上手い奥さん、可愛いお子さんに囲まれて」
 チョンガー達には公威の私生活が、幸福の絶頂に映った。
「君達も早く結婚しろ。結婚っていいぞ」
 公威はそう惚気(のろけ)た。
 
 慰労会は長引き、何時しかのど自慢大会となっていた。公威が手始めに八年前に主演した映画、
「からっ風野郎」
 の主題歌を美声で独唱する。作詞、唄を自らこなした懐メロである。

きのうの風 きょうの風
恋の風 金の風
夢も涙も吹きとばし
人でなしでも 人の子さ
からっ風野郎 あすをも知れぬ命

ムショの風 シャバの風
恋の風 金の風
情しらずの ワナをかけ
惚れはさせるが 惚れはせぬ
からっ風野郎 あすをも知れぬ命
(年表作家読本三島由紀夫より)