公威は人に冷笑されようが、自らその民兵の尖兵となって討死する闘魂に燃えていた。
「偏向なき学生組織は久しく待望されながら今まで実現を見なかった。(中略)目的なき行動意欲は今、青年たちの鬱屈(うっくつ)した心に漲(みなぎ)っている。新しい学生組織はそれへの天窓をあけるものであろう。日本の天日はそこに輝いている」
(森田必勝著わが思想と行動日新報道刊より)

「作家だけにいい文章書くなあ」
 必勝はそう評して、三島由紀夫に関心を持った。
「おい。三島さんが民兵隊を創設するらしいぞ。三島さんは日学同、その中でも早大国防部から有志を募りたい、と仰っている。森田どうだ、やってみんか」
 大学の先輩で、
「日本学生新聞」
 の編集長である持丸博がこう持ち掛けたのは、四月下旬だった。
「ノーベル賞候補作家」
 公威に持丸は親炙(しんしゃ)している。持丸を通して公威と必勝の係紲(けいせつ)が、築かれんとしていた。
「おうっ。やらいでか」
 必勝は威勢良く参加を誓言(せいげん)したが、
「三島さんはほんまに信頼できるのかな」
 と本音を洩(も)らした。
「三島さんに命預けても大丈夫か?タレント紛(まが)いの作家の甘言にうっかり乗って、後で後悔する事にはならないだろうな」
 必勝はそう決眥(けっし)で迫ったのである。