と一礼をしたシーンを脳裏(のうり)に反芻(はんすう)させつつ、じっと今夜の決行の成行を、待構えていた。
 一方バンガロー内で必勝と遠藤は、
「浜にある船を借りて、海へ乗り出す」
 という粗放な計(けい)謀(ぼう)に、躊躇(ためら)いの色を隠せなくなってきていた。
「借りる」
 とはいえ、無断借用である。泥棒に等しい。更に、
「船の操舵(そうだ)ができるだろうか」
 という現実問題がある。
「吉田松陰も船を盗んだのだ。褌(ふんどし)で櫓(ろ)を縛り漕いだのだ。大義の前の小義。何をためらう」
 二人はそう励まし合い、深更(しんこう)を待ちあぐねた。