「そういう手合いは、確かに多い。後共産主義者や無政府主義者もね」
「貴方は違う?」
「全然違う。僕と川端康成先生が文壇に居る限り、日本文学は滅びない」
「父と似てる。俺が生きている限り日本画は不滅だって言ってるわ」
「そう。気が合いそうだ」
公威は瑤子に恋した。瑤子も亦(また)公威に惹きこまれたのである。
公威は瑤子を自邸まで送った。あつ子は一抹(いちまつ)の寂寞(せきばく)感をワインで溶(と)かし、喉(のど)奥(おく)に呑み込んだのだった。
公威が異性に恋心を抱いたのは、初めてである。三十三歳の初恋だった。瑤子に対しては何の戸惑(とまど)いも、見栄(みえ)もない。
「彼女となら、一緒に暮せそうだ」
と信愛(しんあい)できた。
公威と瑤子は四月二十一日にも逢引(あいびき)し、互いの好誼(こうぎ)を不動のものとした。但し今回も何故か、あつ子と三人のデートであった。
二人の婚姻話は、とんとん拍子に進展していった。あつ子の行動力の成果だった。あつ子は小松夫人と目黒区緑が丘の平岡家で話を纏(まと)めると、杉山邸のドアーをノックして、杉山夫妻、瑤子に公威の、
「是非嫁に来て欲しい」
という申し出と、
「五月五日に晩餐(ばんさん)の席を設けたい」
という梓の誘いを伝達した。
杉山夫妻、瑤子は快諾し、端午の節句の日に杉山夫妻、瑤子、平岡父子、あつ子、小松夫人の七名が、中華料理店に集合したのだった。この席上公威は杉山画伯が去年、第十二回日展出品作、
「孔雀」
「貴方は違う?」
「全然違う。僕と川端康成先生が文壇に居る限り、日本文学は滅びない」
「父と似てる。俺が生きている限り日本画は不滅だって言ってるわ」
「そう。気が合いそうだ」
公威は瑤子に恋した。瑤子も亦(また)公威に惹きこまれたのである。
公威は瑤子を自邸まで送った。あつ子は一抹(いちまつ)の寂寞(せきばく)感をワインで溶(と)かし、喉(のど)奥(おく)に呑み込んだのだった。
公威が異性に恋心を抱いたのは、初めてである。三十三歳の初恋だった。瑤子に対しては何の戸惑(とまど)いも、見栄(みえ)もない。
「彼女となら、一緒に暮せそうだ」
と信愛(しんあい)できた。
公威と瑤子は四月二十一日にも逢引(あいびき)し、互いの好誼(こうぎ)を不動のものとした。但し今回も何故か、あつ子と三人のデートであった。
二人の婚姻話は、とんとん拍子に進展していった。あつ子の行動力の成果だった。あつ子は小松夫人と目黒区緑が丘の平岡家で話を纏(まと)めると、杉山邸のドアーをノックして、杉山夫妻、瑤子に公威の、
「是非嫁に来て欲しい」
という申し出と、
「五月五日に晩餐(ばんさん)の席を設けたい」
という梓の誘いを伝達した。
杉山夫妻、瑤子は快諾し、端午の節句の日に杉山夫妻、瑤子、平岡父子、あつ子、小松夫人の七名が、中華料理店に集合したのだった。この席上公威は杉山画伯が去年、第十二回日展出品作、
「孔雀」


