剣と日輪

 あつ子は人妻だが、性を超越(ちょうえつ)している。平気で男友達に一人で会いに行くし、喘息(ぜんそく)もちの旦那(だんな)は、妻の派手な異性交遊を是認(ぜにん)しているらしかった。
 公威は覗(のぞ)き込んでいるあつ子の直視(ちょくし)に堪(た)え切れず、
「是非、お会いしたいです」
 と見合いの確約を交わしたのである。
 あつ子は何でそんなに嬉しいのか、
「日時は先方に、成(な)る丈(たけ)合わせてね。又連絡するわ」
 と嬉々(きき)として去っていった。
(何時もながら、わからん夫人だ)
 公威は有閑ミセスの御節介を、甘んじて受ける事にした。
 あつ子の肝煎(きもい)りにより四月六日日曜、公威は背広を着込み、銀座において、あつ子同伴で杉山瑤子(ようこ)と見合いした。銀座七丁目の関西割烹(かっぽう)料理店、
「浜作」
 の座敷で清楚(せいそ)な瑤子と対座し、公威は一目惚れをしてしまった、と言っていい。
 瑤子は、
「可愛いお嬢さん」
 だった。未だ二十一で、一回り年の差があったが、落ち着きが有り、
「才媛(さいえん)」
 という固有名詞が洋服を着ているような、そんなえもいわれぬ韻律(いんりつ)が観得(みとく)できた。
 瑤子は鯛茶漬けを割箸(わりばし)で摘(つま)み、一口一口食す。公威は茶碗に口をつけ、竹箸でかきこむ。
「鯛は瀬戸内だね」
 公威は止め処(ど)なく当り障りのない無駄話で、瑤子を解(と)き解(ほぐ)していく。とても男色家には見えない。頃合を見計らってあつ子が、
「じゃ、でましょうか」
 と仲人(なこうど)のように仕切って、席を立った。