に魅せられた。幕末の日本を訪れた英国の外交官サトーが、西郷隆盛の眉目(びもく)に魅惑(みわく)された如く、公威は西郷宛(さなが)らに、
「東洋の神秘」
を湛(たた)えていたのだ。
キーンは非難し合う公威とボッツフォードを和解させてくれた。彼は公威にとって異邦人の、
「川端康成」
となる。
公威は異国のビジネスホテルに仮寓(かぐう)しながら、孤客(こかく)の日夕(にっせき)を、噛締(かみし)めていた。キーンに或る日、
「ニューヨークで、名士になりたい。どうすればなれるのだろう」
とぼやいたところ、キーンは、
「マッカーサーやアイゼンハウアー、ヘミングウエイなんかが通り過ぎても、誰も見向きもしない。それがニューヨークなんだ」
と教示(きょうじ)してくれた。
(成る程)
公威は名優ヘンリー・フォンダが人気玩具屋、
「シュワルツ」
で一般客同様に扱われ、店の前で順番を待っているのを目撃していた。あの時誰一人フォンダに呼掛ける者は居なかった。
「フェーム」
などニューヨークでは、さして価値あるものではない。
高層ビルに埋もれた在野(ざいや)の実生活が、巨大な重奏(じゅうそう)へと膨張(ぼうちょう)し、現代社会をリードする原動力となっている。
人種の坩堝(るつぼ)の迷彩(めいさい)は、善悪や優劣を超脱(ちょうだつ)し、ありのままの民生(みんせい)を浮き彫りにしつつ、時を紡(つむ)いでいくのである。
公威はキーンの言に、
(再起を期して、一旦撤退せざるを得ない)
と知覚(ちかく)した。
「東洋の神秘」
を湛(たた)えていたのだ。
キーンは非難し合う公威とボッツフォードを和解させてくれた。彼は公威にとって異邦人の、
「川端康成」
となる。
公威は異国のビジネスホテルに仮寓(かぐう)しながら、孤客(こかく)の日夕(にっせき)を、噛締(かみし)めていた。キーンに或る日、
「ニューヨークで、名士になりたい。どうすればなれるのだろう」
とぼやいたところ、キーンは、
「マッカーサーやアイゼンハウアー、ヘミングウエイなんかが通り過ぎても、誰も見向きもしない。それがニューヨークなんだ」
と教示(きょうじ)してくれた。
(成る程)
公威は名優ヘンリー・フォンダが人気玩具屋、
「シュワルツ」
で一般客同様に扱われ、店の前で順番を待っているのを目撃していた。あの時誰一人フォンダに呼掛ける者は居なかった。
「フェーム」
などニューヨークでは、さして価値あるものではない。
高層ビルに埋もれた在野(ざいや)の実生活が、巨大な重奏(じゅうそう)へと膨張(ぼうちょう)し、現代社会をリードする原動力となっている。
人種の坩堝(るつぼ)の迷彩(めいさい)は、善悪や優劣を超脱(ちょうだつ)し、ありのままの民生(みんせい)を浮き彫りにしつつ、時を紡(つむ)いでいくのである。
公威はキーンの言に、
(再起を期して、一旦撤退せざるを得ない)
と知覚(ちかく)した。


