と公威の手をとる者もいた。虚言(きょげん)が飛交う中、何時(いつ)しか邦子の姿態(したい)は離れたテーブルに移っていた。隣に夫らしき中年の美丈夫(びじょうふ)がいる。
(俺は此処で、何をしているのだろう)
「近代能楽(のうがく)集」
の内、
「卒塔婆(そとば)小町」
「葵上(あおいのうえ)」
「班女」
を連結させた、ブロードウエイバージョンの戯曲(ぎきょく)の上演は、資金不足で主演女優になり手が無い、という有様(ありさま)だった。
公威は、
「自作を世界の桧(ひのき)舞台(ぶたい)に乗せてやりたい」
という意気込みで、プロデューサーのボッツフォードと口喧嘩(くちけんか)する程熱をいれたが、どうやらニューヨーカー達は、ブロードウエイを黄色人に汚されたくない様だった。
公威は失望していた。既に、
(帰国しよう。出直しだ)
と半(なか)ば諦めており、紳士淑女の、
「映画の快挙に次いで、演劇界にも日本が進出するのか」
という驚嘆が、謗(そし)りに受け止められ、哢吚(ろうい)するしかなかったのである。
今回の渡米で得た収穫は、コロンビア大学で教鞭(きょうべん)を執り、日米に半年ずつ生活をしているという、日本文学研究家ドナルド・キーンとの交接(こうせつ)のみだった。公威とキーンの交遊は、公威が鬼籍に入るまで継続していく。キーンは公威の非凡さに惹(ひ)かれ、
「大和魂の映(うつ)し身の如き漆黒(しっこく)の瞳」
(俺は此処で、何をしているのだろう)
「近代能楽(のうがく)集」
の内、
「卒塔婆(そとば)小町」
「葵上(あおいのうえ)」
「班女」
を連結させた、ブロードウエイバージョンの戯曲(ぎきょく)の上演は、資金不足で主演女優になり手が無い、という有様(ありさま)だった。
公威は、
「自作を世界の桧(ひのき)舞台(ぶたい)に乗せてやりたい」
という意気込みで、プロデューサーのボッツフォードと口喧嘩(くちけんか)する程熱をいれたが、どうやらニューヨーカー達は、ブロードウエイを黄色人に汚されたくない様だった。
公威は失望していた。既に、
(帰国しよう。出直しだ)
と半(なか)ば諦めており、紳士淑女の、
「映画の快挙に次いで、演劇界にも日本が進出するのか」
という驚嘆が、謗(そし)りに受け止められ、哢吚(ろうい)するしかなかったのである。
今回の渡米で得た収穫は、コロンビア大学で教鞭(きょうべん)を執り、日米に半年ずつ生活をしているという、日本文学研究家ドナルド・キーンとの交接(こうせつ)のみだった。公威とキーンの交遊は、公威が鬼籍に入るまで継続していく。キーンは公威の非凡さに惹(ひ)かれ、
「大和魂の映(うつ)し身の如き漆黒(しっこく)の瞳」


