グラブが手首にフィットしないのか、公威はチンを無造作(むぞうさ)に叩いたり、ポールやロープを幾度も殴って調節しようとしていた。
(こりゃ駄目だ)
余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の小島と引(ひき)比(くら)べて石原がそう見極(みきわ)めた途端(とたん)、
「カーン」
と闘いのゴングは鳴った。
公威は打って出た。だが公威のストレートは、何れも空振りだった。小島は華麗(かれい)なる防(ぼう)御(ぎょ)テクニックを見せつけている。公威は不意にカウンターを食らう。公威はジタバタしているだけで、次第にコーナーに追詰められていく。
公威はサイドステップで、小島のフックやジャブを回避(かいひ)しようと骨を折っているが、脳と神経が分離(ぶんり)してしまったかの如く、硬直(こうちょく)し切っていた。小島が手加減しているのが、石原の覗(のぞ)くフィルターからも感憤(かんぷん)できた。
(ええい、じれったい)
連打を浴び、コーナーでちじこまっている公威に、石原は声援を送らずにおれない。
「何やってんですか!フック打てジャブ打て。手数を出して、逃げるんだ」
(応援する奴は、気楽だぜ)
公威は真赤な面体(めんてい)で野次(やじ)を飛ばす石原の陰(いん)影(えい)に、苛ついた。小島の多彩(たさい)な連撃(れんげき)が止んだ。一ラウンドを持ち堪(こた)えたのである。
(おお。ワンラウンドもてた)
公威はよろめきつつ、コーナーに引き返す。一分の休息を、石原の檄(げき)が遮(さえぎ)る。
「何でフックで攻めないんですか」
公威は水を、バケツに吐き出した。
「フックは習ってない」
と素っ気無い。
「あ、そうですか」
(こりゃ駄目だ)
余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)の小島と引(ひき)比(くら)べて石原がそう見極(みきわ)めた途端(とたん)、
「カーン」
と闘いのゴングは鳴った。
公威は打って出た。だが公威のストレートは、何れも空振りだった。小島は華麗(かれい)なる防(ぼう)御(ぎょ)テクニックを見せつけている。公威は不意にカウンターを食らう。公威はジタバタしているだけで、次第にコーナーに追詰められていく。
公威はサイドステップで、小島のフックやジャブを回避(かいひ)しようと骨を折っているが、脳と神経が分離(ぶんり)してしまったかの如く、硬直(こうちょく)し切っていた。小島が手加減しているのが、石原の覗(のぞ)くフィルターからも感憤(かんぷん)できた。
(ええい、じれったい)
連打を浴び、コーナーでちじこまっている公威に、石原は声援を送らずにおれない。
「何やってんですか!フック打てジャブ打て。手数を出して、逃げるんだ」
(応援する奴は、気楽だぜ)
公威は真赤な面体(めんてい)で野次(やじ)を飛ばす石原の陰(いん)影(えい)に、苛ついた。小島の多彩(たさい)な連撃(れんげき)が止んだ。一ラウンドを持ち堪(こた)えたのである。
(おお。ワンラウンドもてた)
公威はよろめきつつ、コーナーに引き返す。一分の休息を、石原の檄(げき)が遮(さえぎ)る。
「何でフックで攻めないんですか」
公威は水を、バケツに吐き出した。
「フックは習ってない」
と素っ気無い。
「あ、そうですか」


