「関西人は、人間じゃないからな」
本籍地ながら、関西の、武士道の片鱗(へんりん)もない気風を、公威は厭うている。
「はは。言い過ぎだよ」
「否、僕は関西人は日本人じゃないと思ってるよ」
公威が、笑謔(しょうぎゃく)した。
ピアノの調べが、公威の耳朶(じだ)を叩いた。その旋律(せんりつ)は調和がとれており、流麗(りゅうれい)である。
「仔犬のワルツ」
だった。
「あれは」
「邦子さ。今朝帰ってきた」
「あの日と同じだな」
「ああ。そうだったな」
公威には、
(邦子が自分に聴かせたがっている)
としか識別できない。
それ程ドラマチックな音曲(おんぎょく)だった。
「呼んでこようか」
三谷は黙(もく)爾(じ)たる公威を置いて退室した。やがて兄妹は、闊達(かったつ)な体裁(たいさい)で、公威に接してきた。
話題は邦子の良人(りょうにん)と、その知友に及んだ。
「家が進駐軍の接収を赦免されたのは、主人の知人のお陰なのよ」
邦子は旦那のお惚気(のろけ)話に、暇(いとま)が無い。
「いいなあ、邦子さんの御主人は。こんなに自慢されてて」
「新婚だからさ」
「そんなことなくてよ、お兄様。ずっと尊敬して見せるわ」
本籍地ながら、関西の、武士道の片鱗(へんりん)もない気風を、公威は厭うている。
「はは。言い過ぎだよ」
「否、僕は関西人は日本人じゃないと思ってるよ」
公威が、笑謔(しょうぎゃく)した。
ピアノの調べが、公威の耳朶(じだ)を叩いた。その旋律(せんりつ)は調和がとれており、流麗(りゅうれい)である。
「仔犬のワルツ」
だった。
「あれは」
「邦子さ。今朝帰ってきた」
「あの日と同じだな」
「ああ。そうだったな」
公威には、
(邦子が自分に聴かせたがっている)
としか識別できない。
それ程ドラマチックな音曲(おんぎょく)だった。
「呼んでこようか」
三谷は黙(もく)爾(じ)たる公威を置いて退室した。やがて兄妹は、闊達(かったつ)な体裁(たいさい)で、公威に接してきた。
話題は邦子の良人(りょうにん)と、その知友に及んだ。
「家が進駐軍の接収を赦免されたのは、主人の知人のお陰なのよ」
邦子は旦那のお惚気(のろけ)話に、暇(いとま)が無い。
「いいなあ、邦子さんの御主人は。こんなに自慢されてて」
「新婚だからさ」
「そんなことなくてよ、お兄様。ずっと尊敬して見せるわ」


