ハルジオン。

は……、はッ……

両膝に手のひらを乗せ、大きく肩で息を切らしながら、山道を登っていく。

「何やってんだ、俺は」

頭に張り付いた蜘蛛の巣を払い除け、達也はひとりごちた。

思ってもみない衝動だった。

東京に戻るつもりでホテルを出たのだ。

今度こそ、何もかもをこの小さな町に閉じ込めて蓋をするつもりだった。

にもかかわらず、いつしか達也の足は、昔百合子や靖之と一緒に駆け回った山道へと向かっていた。

感傷だろうか。と自問する。

昨夜二人と会っていなければ、きっとこんな衝動に駆られることもなかったろう。