ハルジオン。

長い接吻の後、男の手がセーラー服の胸元に伸びていくのが見えた。

達也は堪らず目を逸らした。

「嫌」

と溢す百合子の声に耳を塞ぎ、逃げるように踵を返した。

ところが、

「……逸子」

相手の男の声を聞いた瞬間、達也の体は一瞬にして硬直した。

「イツコ?」

瞳孔を開いたまま振り返る。

その名、そしてその男の声に覚えがあった。

考えるより先に体が動いていた。

倉庫の中に足を踏み入れる。そこに父の横顔を見た瞬間、達也は無機質なモルタルの床を蹴っていた。