この日、達也はどうしても行くと言ってきかない百合子を連れて、母の故郷である遠野に足を伸ばした。

東北新幹線で花巻に向かい、そこから在来線に揺られること一時間あまり。

ゴールデンウィークの真ん中とあって、さほど激しい帰省ラッシュに巻き込まれずに済んだのは幸いだった。


「あ、郵便局」

その百合子が住所の書かれた封筒を手に駈けていく。

不案内な土地では、地元の郵便局員が頼りになるものだ。

「……暑い」

達也は紙袋を足下に置き、襟を掴んで胸元を扇いだ。

梅雨のせいだろうか。好天にもかかわらず、息苦しいほどに湿度が高い。