ハルジオン。

「ほら」

靖之と百合子が背中を押す。

「……分かったよ」

庭先の砂利を踏みしめ、達也は渋々玄関の戸に近づいた。

「はあ」

と短いため息をこぼす。

二年前にここを出た。

もう戻ることはないと思っていた。

電気もガスも水道もとうの昔に止まっているこの家に、こんな夜分に上がってどうしようというのか。


ザワ……と風が抜ける。

懐かしい埃の匂い。


――ガラ、ガラガラ……

達也はポストに放りこんだままになっていた鍵を鍵口に差込み、立て付けの悪い戸を横に引いた。