ハルジオン。

この三時間の記憶がないのがもどかしかった。

辿り着くと記憶がなくなるという螢の森。確かにそれは理にかなっている。

どういうメカニズムでそんなことが起こるのかは分からない。

もっとも、そんなことを言い出せば、そもそも螢の森などという都市伝説が実在すること自体がいまだに信じられないし、それこそどんなメカニズムでそんなものが存在しうるのかも分からない。

けれど、何故かすとんと胸に響くものがあった。

悲しいことも辛いこともたくさんあった。でも、自分はこうして生きている。生かされている。

もし本当に靖之と螢の森に辿り着いたのだとして、俺はそこでいったいどんな願い事をしたのだろう?

分からない。

けれど、漠然と「自分のための何か」を願ったのではないような気がした。あるいは、愛染窟で目覚める少し前にみた母親の夢、あれこそが願いだったのだろうか?

達也はそんなことを考えながら、静まりかえった夜空を見上げた。