ふわり、ふわりと蛍が舞う。

昼間降った雨に濡れた足もとの雑木から、無数の蛍が沸き立ち、靖之を包む。

不意に風が揺れた。

螢の灯が一斉に乱れ、息を潜めたように暗闇が戻った。

「……何だろう?」

靖之は嫌な胸騒ぎを覚えた。

ザワリ、ザワリと胸が掠れる。

濃紺色の空に浮かぶ雲が、見たこともない早さで流れていく。


このざわめきは何?


「……ゆりちゃん」

立ち止まり、息をひそめていた靖之は、神社へと続く土手を急いだ。